東平霊園も桜の名所である。平沢中学校西側からS字状に曲がった道を登っていくと、その両側にはソメイヨシノの古本が30本ほど立ち並んで桜のトンネルとなっている。さらに上ると眼下に海が望めるようになり高度感が得られる。ヘアピンカーブ付近にも約15本の染井吉野があり、幹も太いものが多い。墓地はここまでであるが、その先の右側に階段があって、上りつめると「楠魂」と書かれた碑がある。この楠公碑の裏側にある中央インターチェンジヘの進入路付近に、近年「ウジョウシダレ(雨情枝垂)」と「ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)」の二種類の枝垂桜が、合わせて3本植えられた。
「八重紅枝垂」の方は、その名の通り八重咲きで少し濃いピンク色の花を咲かせる、ごくありふれた枝垂桜の一品種である。
もう一方の「雨情枝垂」は、その名の起源に由緒があるのでここでふれておく。野口雨情は、多賀郡磯原村(北茨城市磯原町)に生まれた著名な詩人・童謡作家であるが、生前の一時期を宇都宮市鶴田町ですごしたことがある。一説には戦時中の疎開地ともいわれるが、その旧宅の庭に多くの枝垂桜があって、その中に1本、ほかの八重紅枝垂に混じって特異なものが植栽されていた。戦後、東京大学付属日光植物園の久保田秀夫により新品種であることが判明した。雨情の旧宅で発見されたことにちなんで「雨情枝垂」と命名された。
この雨情枝垂は、ほかの枝垂桜に比べて生育が遅く、樹高も4メートル程度にしか成長しない小振りの桜である。開花時期は4月中、下旬で淡い紅色の花が開くことなどから、その時期には比較的容易にほかの枝垂桜と区別できる。また碑の周囲には、これらの枝垂桜と相前後して植えられたソメイヨシノと花挑(ハナモモ)が並んでいる。成長してからの花の見事さが楽しみである。
この東平霊園は「霊園」ということから、これまで「桜の名所」としてはあまり知られていなかった。しかし、市街地の眺望と桜の美しさとの取り合わせという点で、かみね公園に優るとも劣らない景勝の地であろう。